自作小説~Mon etagere

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恋愛小説(読みきり)


約束~PROMISE~

2011.08.22  *Edit 

 夕日が赤く染める部屋の中で、美咲はいつものように携帯を手にして、メモリーの000番を呼び出す。
 ディスプレイに映る、明人呼び出し中の文字。
 それを悲しそうに見つめ、二十回ほどコールしたところで切る。
 これが彼女の日課だった。
 美咲は今年で23になる。
 高校を卒業してからは、近所の会社の事務でOLをしていた。
 なんの変化もない退屈な毎日。
 それをあの人が、あの日に変えてくれたのだ。
 自慢の長い黒髪を左手で撫でて、ベッドの上に携帯を放る。

 「もう半年か……」

 まるで自分に言い聞かせるように呟く言葉が、虚しく耳に響く。
 あの約束から、もうすぐ半年。

 「裏切られちゃったかな?」

 そのままベッドに仰向けになり、瞳を閉じて、明人のことを思い浮かべた。


 六月末。
 世はまさに、梅雨真っ盛り。
 鬱陶しい雨が連日続き、しだいに汗ばむ気温になってゆくのを肌で感じる季節。
 一年で、一番嫌なシーズン到来である。
 そんな雨の降りしきる夕方。
 美咲は恋人の明人と、小さなレストランの中にいた。
 けっして高級ではない、小さな店構え。
 それでも落ち着いたインテリアと雰囲気とが、安らぎを与えてくれる。
 美咲お気に入りのレストランである。
 そこの窓辺のテーブルに、いつもと違った明人のスーツ姿があった。
 明人は美咲の2つ上。
 短く刈った髪と、日焼けした肌が印象的な好青年だ。
 彼は普段より髪型を整え、真新しいカジュアルスーツに身を包み、緊張した面持ちでこちらを見つめてくる。
 ちょうど食事も終わり、ワインを楽しんでいた美咲と目が合い、思わず彼女がワインを噴き出しそうになる。

 「ぶっ、けほっけほっ。なによ、さっきからじっと見つめて。なんか、今日の明人、変よ?」

 そんな彼女の抗議の声も聞こえないのか、押し黙ったままの明人。
 彼は、美咲の方を落ち着きなく視線を這わせ、ためらいがちに口を開いた。

 「美咲。もし、もしもだ、半年後のクリスマスまでにお互いの気持ちが変わらなかったら、これを受け取ってくれないか?」

 そう言って、テーブルの上に取り出したのは、青い小さなケース。
 その中身は、フタを開けるまでもなく想像できる。
 美咲は緊張する明人に、悪戯っぽく微笑んだ。

 「お互いにっていうことは、あなたもっていうことよね?」

 「いや……俺は……」

 途端にしどろもどろになる明人の様子を、美咲が楽しそうに眺める。

 「ふふっ、いいわよ。その代わり、心変わりなんかしたら、許さないんだからねっ!!」

 その言葉を聞いて、情けなそうに微笑み返す明人。
 二人は、クリスマスにプロポーズをする約束をしたのだった。


 そんな光景を思い出し、美咲の瞳から、自然と涙が溢れてくる。

 「約束したのに……」

 堪えきれずに嗚咽を漏らし、マクラに顔を埋める。

 「なんで連絡よこさないのよ……バカっ!!」

 美咲が力いっぱいベッドを殴ると、携帯がベッドの上から転がり落ちた。
 その音にハッとして、美咲がすぐに拾い上げる。
 そのまま携帯を、両手で大事そうに包み込む美咲。
 これが、彼とのたった一つのつながり。
 約束をして、すぐに連絡が取れなくなった彼。
 あれから明日で、ちょうど半年。
 半年も過ぎれば、もう諦めもついて良さそうなものではあるが、美咲は約束を信じていた。
 別に身体を許したわけではない。
 忘れてしまっても、時間と心が消費されるだけだ。
 だから忘れてしまおうと、何度も思った。
 だがそのたびに、彼の優しい瞳や声が脳裏に浮かび上がって、儚い望みの糸をつなぎとめる。
 どうしても、忘れることのできないもどかしさ。
 美咲は、今日、クリスマス・イヴに望みをかけていた。
 明日が約束の日。
 今日、連絡が取れなかったら諦めよう。
 そう決心して、彼女はもう一度だけ、携帯で明人を呼び出した。

 トゥルルルルルルルルル、トゥルルルルルルルルル(がちゃっ)

 「もしもし、萩原明人の携帯ですけど……」

 突然、携帯の向こうからする女性の声。
 やはり、そうだったか。
 ある程度予想はしていたが、いざその声を聞いてしまうと、頭の中が真っ白になってしまう。
 一瞬言葉を失った美咲だったが、意を決して言葉をしぼり出す。

 「わたし、鈴野美咲と申しますが、明人いますか?」

 毅然とした声で言おうと思ったが、少し震えてしまう。
 そして、電話の向こうの女性が、少しためらいがちに、間をあけて言葉を返す。

 「あっ!! もしかして、兄の恋人のミサキさんですか?」

 「ええ……兄ってことは、明人の妹さん?」

 「はいっ、私は妹の千里です。あ、それよりも、美咲さん!! すぐに市立中央病院に来て下さい!! 兄が、兄が……」

 そこで携帯が切れた。
 もう一度かけ直そうかとも思ったが、得体の知れぬ不安に襲われ、かけ直すことができなかった。
 病院?
 どういうこと?
 彼の身に何かあったの?
 美咲はすぐに厚手のコートを羽織ると、タクシーを止め、病院に急いだ。
 中央病院まではタクシーを使っても、二十分はかかる距離だ。
 その車中で、言い様のない不安の中、美咲は祈り続けた。
 ただ、彼の無事だけを……。


 受付で病室を聞いた美咲は、エレベータを待つのももどかしく、階段を駆け上がっていく。
 ようやく4階にたどり着いたときには、呼吸はかなり荒くなっていた。
 そのまま廊下をひた走り、目的の403号室に到着する。
 ドアに手を伸ばしたものの、なかなか開ける勇気が湧いて来ない。
 すごく怖い。
 ここを開けてしまったら、二度とは戻れない現実を知ってしまうような気がする。
 だけど、彼に逢いたい!!
 美咲は一度だけ深く息を吸い込むと、ドアを開けた。
 そして、白い無機質な空間が目の前に広がった。
 そこに夕日が差し込んで、不気味な赤い影を落とす。
 その病室の奥に、明人の横たわるベッドがあった。
 体中に無数のチューブがつなげられ、人工呼吸器でなんとか息をしている姿。
 元気だった頃の面影はどこにもなく、やつれて痩せ細った体が痛々しかった。
 眠っているのか、その瞳は固く閉じられ、顔は蝋人形のように白い。
 そんな明人のベッドを取り囲むように、家族と思われる3人がいた。
 初老の男女は両親だろうか?
 そして、もう一人の若い女性。
 その女性が、美咲の姿を確認して、こちらに駆け寄ってくる。

 「あっ、美咲さんですよね?」

 快活そうな、二十歳そこそこくらいの女性。
 その声からして、電話に出た明人の妹の千里だと分かる。

 「はじめまして、鈴野美咲です。それで、彼の様態はどうなんですか? 大丈夫なんですか?」

 挨拶もそこそこに問い詰める美咲に、部屋にいた一同の顔が、一様に曇った。
 そしてそんな沈黙を破って、明人の母親が美咲に声をかける。

 「美咲さん、この子は肺ガンなんです。7月に入ってすぐに吐血して倒れて、検査したときにはもう手遅れだったんです」

 「そ、そんな……」

 いきなり知らされた事実に、美咲は文字通り目の前が真っ暗になり、足に力が入らなくなった。
 そのままその場に崩折れそうになるのを、明人の父親が支えてくれる。

 「大丈夫ですか?」

 「えぇ……」

 なんとか肩を借りて立ち上がろうとする美咲に、ベッドの脇の椅子を勧めてくれる。
 椅子に座り、呼吸を懸命に整えようとする美咲。
 だが椅子に座ってしまうと、嫌でも間近に、変わり果てた明人の姿が目に入ってしまう。
 そんな姿に、堪えきれずに自然と流れる涙。
 涙にかすむ視界の中で、明人の姿も儚げにぼやける。

 「なんで……なんで教えてくれなかったのよ!! 一人で抱え込んで……話してくれれば、もっとたくさん逢えたじゃない!!」

 嗚咽交じりの美咲の言葉。
 もちろんこれは、明人に対して発したものだが、彼の妹の千里が申し訳なさそうに弁明する。

 「……ごめんなさい。兄に美咲さんにだけには絶対言うなって、口止めされていたんです。そうすれば、きっと自分のことなんか忘れて、他の人と幸せになれるからって……」

 「バカよ……あなた以外の人と幸せになれると思っているの? ねえ、約束覚えてるでしょ? 明日、プロポーズしてくれるの、わたし、ずっと待ってたんだからね!! だから、目を開けてよ!! 目を開けてよっ!!」

 叫びながら、明人の腕を乱暴に揺する美咲。
 そんな彼女を、明人の母親が後ろから優しく抱きしめる。

 「この子は今、モルヒネで眠っているんです。もう目を開けることは……」

 最後まで言えず、涙を流す母親。
 美咲は揺すっていた手を這わせると、明人の手を握った。
 もう、わたしの言葉は、彼の耳には届かない。
 もう、彼の優しい瞳は、わたしの姿を見つめてもくれない。
 彼女の心には、言い知れぬ絶望感と無力感だけが広がってゆく。
 そんな時、不意に明人の手に力が入り、今まで閉じられたままだった瞳が、ゆっくりと開く。
 驚いた美咲が、明人の顔を覗き込むように顔を近づけていく。

 「明人!! 明人!! わたしよ!! 美咲よ、分かる?」

 必死に叫ぶ美咲の声に反応するように、モルヒネで意識朦朧のはずの明人の視線が動く。
 焦点のあっていない瞳が、美咲の顔を見つめる。
 明人は美咲だと分かったのか、引きつったような弱々しい笑みを浮かべると、美咲とは反対側の手をゆっくりと動かした。

 「なに? どうしたの?」

 美咲が戸惑うのにも構わず、明人は苦労しながら動かした手を、美咲の手に重ねる。

 「えっ!?」

 その重ねられた手から、銀製の小さな輪がこぼれ落ちる。
 それは、半年前の約束の指輪。
 美咲はその指輪を左手にはめ、明人の顔の前にかざした。

 「ほら、ちゃんと指輪をはめたわよ!! これで婚約したんだからね。だから、だから……お願いだから、元気になって!!」

 美咲のこぼした涙が、明人の頬にかかる。

 「……えぇよ……」

 人工呼吸器越しに、明人の苦しそうなくぐもった声が聞こえる。

 「えっ?」

 明人の口元に、耳を近付ける美咲。

 「……早えぇよ……約束は……あ……した……だっただろ……」

 乾ききってカサカサになった明人の唇が動き、それだけ言うと、また眠るように静かに瞳を閉じた。
 人工呼吸器の音だけが後に残り、かろうじて彼が生きていることを知らせていた。
 それから、何度必死に呼びかけても、明人は目を開けることはなかった。
 そして、クリスマスの昼。
 萩原明人は、帰らぬ人となった。


 「アンタねぇ!! 世の中がクリスマス一色で、カップルたちがイチャついてる中、墓参りなんかさせる最低な男なんて、この世にアンタ以外いないわよ!!」

 雪が振り積もり、身を切るような風が吹く中、美咲は明人の墓の前にいた。
 今日は、明人の一回忌。
 この日のために買ったコートを羽織り、墓の前でターンしてみせる。

 「どお? 似合う?」

 まるで恋人にでも見せるかのように、にっこりと微笑む美咲。
 そんな彼女のほうへと、3つの足音が近付いてきた。

 「あら、美咲さんじゃないの!!」

 「おおぉ、たしかに美咲さんだね」

 その声に振り向くと、美咲の視界に、明人の両親と妹の千里の姿が見えた。

 「ご無沙汰しています」

 深々と頭を下げる美咲。

 「美咲さん!! お久しぶりです」

 そう言って駆けて来る千里。

 「あらあら、千里ちゃん、大きくなったわね」

 「大きくなったって……もう、子供あつかいしないでください!!」

 「あはははは、ごめんなさいね」

 笑顔で抱き合う二人。
 そんな美咲に、明人の母親が言葉をかけてくる。

 「美咲さん、もういい人見つけたの? あなたはまだ若いんだから、いくらでもやり直しができるのよ」

 その言葉に、美咲の顔が一瞬だけ曇る。
 しかし、次の瞬間にはにっこりと笑い、

 「わたしは萩原明人の妻です」

 左手にはめられた指輪を、かざしてみせる。

 「でもねえ、あの子も、あなたが幸せになってくれることを願っていると思うわよ」

 「わたしは幸せですよ。あの人は、約束を覚えていてくれた。それに、クリスマスには毎年、絶対に逢えるのって幸せなことですよ!!」

 そう言って微笑む美咲。
 その手にはめられた銀の指輪が、彼女を守るように、太陽を反射して輝いた。


   おしまい




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~ Comment ~

NoTitle 

月さんのことだっ・・・!
これからどうやってバトルな展開に持っていくのかと・・・。

おもっ・・・たら。

なんとも良い話じゃないですか・゚・(⊃Д`)・゚・
泣けてきやしたぜ、大尉っ!
目の前のHUDがかすんでみえらぁ。

 

月さんって、たまぁに、硝煙も爆発も出てこない、こういうホロリとする話を書かれるから……読む側としてはふいをつかれますよぅ(;-;)

NoTitle 

 ねみさん、いつもコメありがとうございます^^

>>月さんのことだっ・・・!
これからどうやってバトルな展開に持っていくのかと・・・。
おもっ・・・たら。

 わっはっはっは!!
 今回は戦闘とは無縁のお話ですよ^^
 まあ、昔に贈り物小説として書いたのを、UPし直しただけなんですけど(゜▽゜;)

>>なんとも良い話じゃないですか・゚・(⊃Д`)・゚・
泣けてきやしたぜ、大尉っ!

 喜んでいただけたのなら幸いです^^
 たまにはこういうのもいいかなぁって^^

>>目の前のHUDがかすんでみえらぁ。

 それはいけませんね!!
 HUDのディスプレイに撥水剤を……
 いやもう!! そのまま目にガラコを!!(おい

NoTitle 

 ミズマさん、コメントありがとうございます^^

>>月さんって、たまぁに、硝煙も爆発も出てこない、こういうホロリとする話を書かれるから……読む側としてはふいをつかれますよぅ(;-;)

 いつも硝煙臭い話ばかりだとアレなので(゜▽゜;)

 あ、でも、美咲vs明人もいいかも……
 明人が人工呼吸器で
 『コォーフォォー』とか呼吸して、ライトセーバーでシュキンみたいな(゜▽゜;)

 たまには普通の小説を書いてしまうのですが、どうですか?
 やっぱりドタバタの方がいいのかしら?

え? 

ガンアクションはまだですか(´・ω・`)
アレ……月さん……アレ?
え……ギャグ……?
え?


え?(大失礼)

NoTitle 

 HANA子さん、いらっしゃいませ^^

 このお話は、まだわたしが正気(?)だった頃に書いたものです。

>>ガンアクションはまだですか(´・ω・`)

肺がん……癌……がん……ガン……GUN!!
だめ?(ノ_・、)

>>アレ……月さん……アレ?
え……ギャグ……?
え?
え?(大失礼)

 ちょっと!!
 わたし=銃撃のイメージですか?(´;ω;`)
 否定はしませんが(゜▽゜;)

 次は銃撃もの書きますよ^^

NoTitle 

おおお……月さんというと、ロジャーさんやマーガレットさんやら、コメディのイメージが強かったのですが、これは感動ものですね!

ラストの、「わたしは萩原明人の妻です」という台詞に泣かされました~><

コメディ書けて感動ものも書けるなんてすごいです!
さすがは月さんですね~^^

NoTitle 

 わぁああああああ、夏美さぁ~~ん^^

 お仕事忙しいのに、コメありがとうございます_(._.)_

>>おおお……月さんというと、ロジャーさんやマーガレットさんやら、コメディのイメージが強かったのですが、これは感動ものですね!

 やっぱりわたしのイメージに恋愛ものは(ry
 でも、感動していただけて書いた甲斐がありました^^

>>ラストの、「わたしは萩原明人の妻です」という台詞に泣かされました~><

 わたしもあそこがお気に入りなんです^^
 ベタですけどね(゜▽゜;)

>>コメディ書けて感動ものも書けるなんてすごいです!
さすがは月さんですね~^^

 私の構成要素は、70%のコメディ、10%の火薬、15%の軍事知識、その他5%でできています(゜▽゜;)
 でもなつみさんの素敵な世界観や小説には負けますけど^^

 また小説拝見に行きますね^^
 お体には十分気を付けてくださいませ^^
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