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自作小説~Mon etagere

現代版桃太郎(銃撃コメディ)


現代版桃太郎 ~ONIGASIMA 2007~② 夫婦喧嘩は犬も食わないが、巻き添えは食う

2009.05.09  *Edit 

 「戻ったぞ」
 ロジャーさんが帰宅したのは、日も暮れた午後7時半のことだった。
 何をしてきたのか、軍服やブーツは泥だらけで、ところどころ服が破れていたりする。
 それがいつものことなのか、マーガレットさんは気にする風もなく、静かに口を開ける。
 「どこぞで雌猫でも追っかけてたのかい?」
 辛らつな一言。
 だがロジャーさんもまた、気にする風もなくその言葉に答える。
 「いやのぉ、敵の待ち伏せの訓練をしておったのだが、周囲にクレイモア(対人地雷)を設置している最中にイノシシが出おってのぉ、設置しておったワナを全部作動させおったんじゃ。危うく、近くのクレイモアに巻き込まれるところじゃったよ」
 「まったく、アンタはいくつになっても手がかかるねぇ。早く汚れた服を脱いで、洗濯カゴに入れておしまいよ。破れたところは縫っておくからのぉ」
 なんやかんや言っても、仲のいい夫婦。
 そのとき、リビングのソファーの上で、赤子の泣く声が聞こえてきたのだった。

 二人に子供はいなかった。
 正確には一人息子がいたのではあったが、1982年のフォークランド紛争により、その愛息子を失っていたのだった。
 それから養子を取ることも考えた二人だったが、死んだ息子のことを引きずってしまい、そうすることはしなかった。
 だからロジャーさん、びっくりするというよりも嬉しそうにマーガレットさんを見つめて肩を抱くと、
 「お、おまえ、とうとうやったのか。まさかこの年で父親になれるとはのぉ」
 「そ・ん・な、わけがあるかいっ!!」
 どごぉっ
 不意を喰らったロジャーさん。
 マーガレットさんのフルスイングの掌底をまともに顎に受け、後ろへとひっくり返る。
 「ぐふぉっ、いきなりなにをするんじゃい」
 「なにをするじゃないよ。この子は拾ってきたんじゃ」
 「拾ってきたって、……まさか拉致か!?おまえ、いつから北朝……」
 「言わせねえぇよぉっ!!」
 ぼぐうぉっ
 今度はマーガレットさんの蹴りが、立ち上がろうとしたロジャーさんの腹部に炸裂した。
 これにはロジャーさんも顔を真っ赤にして怒り出す。
 「このくそババァ!!ワシが下手に出てればいい気になりおって!!」
 こうして、トラスク家の夫婦喧嘩は始まった。
 ロジャーさんはSASの隊員だった男。
 射撃や接近戦では負けることはないだろう。
 一方のマーガレットさんもDISで訓練を受けたといっても、専門家にはかなわない。
 だがマーガレットさん、余裕の笑みを浮かべながら、キッチンの陰へと身を隠す。
 ロジャーさんは匍匐前進で、回り込むように移動した。
 すると目の前をかすめるように一本のワイヤー。
 そのワイヤーをたどってみれば、手榴弾のピンへと伸びている。
 なるほど、あらかじめロジャーさんのルートを選定して、ワナを用意しておいたということか。
 いや、待てよ。
 そもそもこの夫婦喧嘩を想定して設置いていたとすれば、マーガレットさん、なかなか怖い奥さんである。
 夫婦喧嘩で手榴弾使ってる時点で十分アレではあるが。
 だがロジャーさん、冷静に工具を取り出し、ワイヤー切断に取り掛かる。
 この手のトラップは、設置は簡単だが、見破れてしまえば解除は楽なのである。
 不用意に身体をワイヤーに引っ掛けると、手榴弾の安全ピンが抜けて、至近距離で手榴弾が爆発するという単純な仕掛けだ。
 つまり、ピンを抜かないようにワイヤーを切ってしまえば、ただの手榴弾のオブジェに早変わりなのである。
 そんなオブジェ、絶対に飾りたくはないが。
 慎重に工具でワイヤーを切断するロジャーさん。
 ……ぱちり。
 元SASのロジャーさんにかかれば、こんな稚拙なものは目をつぶってもできる。
 だが手榴弾と反対側、つまり、もう一方のワイヤーが消える方向には、大きな観葉植物の植木鉢が置いてあった。
 「……!!!」
 それを見るなり、ガバッと身を起こすロジャーさん。
 そのまま脇目も振らずに跳躍し、植木鉢を飛び越える。
 その瞬間。
 どごぉおおおおん
  植木鉢に巧妙に隠された対人地雷クレイモアが炸裂し、さっきまでロジャーさんがいたエリアを中心に、壁や床が砕け散り、木片が舞い上がる。
 このクレイモアという地雷、湾曲したお弁当箱のような形をしており、爆発すると前方60度の扇状の範囲に700個の鉄球をばら撒くという、えらく物騒なシロモノである。
 そして爆弾の後方に退避したロジャーさん。
 だが、ロジャーさんは忘れていた。
 クレイモアは起爆にC4を使用し、後方180度が爆風範囲になっていることを。
 爆発と同時に、ロジャーさんは爆風に煽られるようにして、食器棚へと頭から突っ込んだ。
 辺り一面に食器の割れる甲高い音を立てて、皿やらコップやらの破片が飛び散りまくる。
 ダイハードの主人公なら、間違いなく裸足で怪我をしそうである。
 そして食器類が一通り落ち終わると、今度は黒い塊の入ったコップが落ち始める。
 「むぅっ!!!!」
 それらは床に落ちると砕け散り、中に入っていたピンを抜いた手榴弾のレバーがカチリと外れる。
 どごぉっどごどごどごどぉっ
 床に這いつくばり、ころげ回るロジャーさん。
 どうやら命に別状は無いらしい。
 実は手榴弾、爆発のほとんどが上方や斜め上に向かうため、ある程度離れて伏せていれば、結構助かるものなのである。
 しかし爆発が終わってみても、舞い上がった爆煙と木片で、視界はゼロに近い。
 だがロジャーさんは怯まない。
 この隙をついて、マーガレットさんが隠れるキッチンへと大きく跳躍する。
 さすがに自分に被害が及ぶエリアには、トラップなぞ仕掛けるわけもなく、ロジャーさんは悠々とマーガレットさんが隠れる物陰へと歩を進めた。
 哀れマーガレットさん。
 コーナーの隅へと追い詰められ、うずくまったままロジャーさんを見上げている。
 「ふっ、勝負あったようじゃな」
 勝ち誇ったような笑みを浮かべて近付くロジャーさん。
 対するマーガレットさんは、身震いするように身体を震えさせ、懇願するような瞳を向ける。
 「ロジャー……もうわたしのことなんて、愛しておらぬのじゃろう」
 「むうぅ」
 その言葉にまともに動揺し、立ち止まるロジャーさん。
 「いや、ワシは今でも……」
 「じゃあ、なんで外に他の女なんかを」
 そう言って泣きはじめるマーガレットを、慰めようとロジャーさんが不用意に近付く。
 マーガレットさんは冷蔵庫のドアを開けて、隠れるように泣きじゃくる。
 男は女の涙に弱い。
 まるっきり戦意をなくして近付くロジャーさんに、マーガレットさんが泣きながら何かを投げつける。
 それは足元に落ちて、ゴトリと音を立てる。
 黒い円筒形の物体。
 シュパァッ
 それはそんな音を立てて、上部のみが胸の高さまで跳ね上がる。
 「ぐほぉっ!!」
 あわてて殴りつけるロジャーさん。
 円筒形の物体が、殴られた拍子に角度を変える。
 ぼふぅっ
 次の瞬間、その円筒形の物体は空中で炸裂し、周囲に鉄球をばら撒いた。
 目の前で爆発したにもかかわらず、ロジャーさんは爆発で後ろに飛ばされただけだった。
 この跳躍地雷というやつは、人間の胸の高さまで飛び上がると、水平に近い角度で周囲に被害を及ぼすのだ。
 つまり殴られたことのよって角度を変えた地雷は、垂直方向に鉄球を飛ばしたことになる。
 その証拠に、地雷の爆発した床と天井部が、ズタズタに崩れ去っている。
 とはいえ、あんなものが目の前で爆発したのだから、たまったものではない。
 爆風で吹き飛ばされて、腰をしたたかに打ったのか、立ち上がることさえできないでいた。
 そこへ、悪魔のような笑みを浮かべてマーガレットさんが歩み寄る。
 「まだまだじゃのぉ、ロジャー」
 「汚いぞぉ、マーガレット」
 さすがはマーガレットさん。
 心理戦のプロである。
 マーガレットさんは愛用の拳銃をゆっくりと構え、ロジャーさんへと照準を合わせる。
 「待て、マーガレット。話せば分かる」
 ロジャーさんの顔が、まともに引きつりだす。
 Pfeifer Zeliska。
 象や大型動物を狩猟するためのライフル弾600NEを射出する、世界最強の拳銃である。
 しかもご丁寧に、ホローポイント弾が装填してある。
 これは弾頭が凹状になっており、着弾時にマッシュルームのように広がって、2倍の殺傷効果を及ぼすものだ。
 ズガァアアッン
 まさに大砲のような発射炎を吹き上げて、銃弾がロジャーさんの後ろの壁に大きな穴をあける。
 それと同時に、腰を押さえてその場にくず折れるマーガレットさん。
 だからそれ撃ったらダメだって言ったのに。
 二人は床に這いつくばるようにして、向かい合っていた。
 「ふっ、マーガレットも年じゃのぉ」
 「何を言うんじゃ。あんたなんか、火薬の量を減らしてやらなかったら、さっき死んでいたろうに」
 なぬぅ!?
 あれで火薬の量抑えてたんですか?
 キッチンがほぼ半壊してるんですけど。
 これは完全に、夫婦喧嘩の域を超えまくっているんですが。
 そのまましばし、にらみ合う二人。
 キッチンに静寂が訪れた。
 いや。
 耳を澄ませばかすかに聞こえる赤子の鳴き声。
 しまった!!
 ようやく気づいたロジャーさんとマーガレットさん。
 隣のリビングへと、ふたり同時に這うようにして移動する。
 なんとかたどり着いた二人は、赤子をはさんであやしだす。
 「いない、いない、婆」
 とマーガレットさん。
 婆のところがミソである。
 ところがすぐに泣き止まないのが、赤ちゃんという奴である。
 次第にイライラしはじめるロジャーさん。
 とうとう痺れを切らし、腰のホルスターから愛用の拳銃SIG SAUER P226を抜き放つと、赤子の顔に銃口を突きつける。
 「Sleep quickly!!(さっさと寝ろ!!)」
 ぶっ
 おいおい、どこの世界にそんなあやし方があると言うのだ。
 ここの世界にありましたか、そうですか。
 横にいるマーガレットさんも呆れてるぞ。
 だがしかし、銃を突きつけられた赤ちゃん、何を勘違いしたのか泣くのをやめると、銃口に手を伸ばし、チュパチュパと吸い始める。
 これにはロジャーさんもマーガレットさんも、ポカンと口を開けるばかり。
 なかなか見所のある赤ちゃんである。
 違うかぁっ!!
 そしてそのまま、すやすやと安らかな寝息を立て始める赤ちゃん。
 ロジャーさんとマーガレットさんは、お互いに顔を見合わせると、起こさないように細心の注意を払いつつ、一階の書斎へと移動する。
 その頃には夫婦喧嘩の熱も冷め、二人は安堵のため息をつく。
 そしてマーガレットさんから事の次第を聞くやいなや、ポンっと手を打つロジャーさん。
 「つまり身元不明、届出無しの孤児ということじゃの?ふむ……どうじゃマーガレット、ジョンの代わりにワシらで育ててみんか?」
 ジョンというのは死んだ二人の息子のことだった。
 マーガレットさんはその名前を聞いた瞬間、暗い表情を見せたものの、少し考え込んでからコクコクと頷いた。
 「そうじゃのぉ、わたしたちが届出を出しても施設に送られて、どこぞの誰かに養子に出されることになるじゃろう。それならわたしらが育てても問題にならんかもしれんのぉ」
 ふたりは頷きあい、書斎に置かれたパソコンの前までやってくる。
 話が決まればあとは早い。
 二人は持てる限りのコネをフル動員して、役所やらなんやらに圧力をかけ、数十分後には、めでたく二人の養子となっていた。
 いいのか、こんなんで。
 いくらお役所仕事とはいえ、せめて面接くらいはしようよ。
 そこでマーガレットさん、神妙な面持ちで、ロジャーさんに話しかける。
 「そういえば、この子にはまだ名前が無かったのぉ。ロジャー、なんかいい名前でも思いつかんかの?」
 そう言われ、しばし考え込むロジャーさん。
 ポンっと手を打ち、
 「そうじゃ、『桃太郎』というのはどうじゃ?」
 どうじゃ、じゃなくて。
 なぜに桃太郎?
 いや、たしかに桃太郎題材にしてるけどさあ。
 マーガレットさんだって怒るでしょ?
 「おお、それが良いのぉ」
 怒ってなかったし。
 どうやらこの二人、かなりの日本マニアらしく、高橋英樹主演の桃太郎侍の熱狂的なファンなのであった。
 だからって、そんな名前付けないでしょう、ふつう。
 学校でイジメられてグレるぞ。
 こうして、男の赤ちゃんは二人の養子となり、『桃太郎』という名前が付けられました。
 めでたし、めでたし。
 めでたいのか?

                   ~②おわり~


 ………。
 ふたりが意味もなく喧嘩したせいで、桃太郎の名前がつくところまでしか、書けませんでした(つд・)
 本当なら3匹の仲間を手に入れるところまで行かなくても、成人して鬼退治に出発するところまで書くはずだったんですけど(゜▽゜;)
 毎度のグダグダっぷりですね><

 こんなマニアックな変な小説でもよければ、続きも読んでください
 _(._.)_

⇒⇒現代版桃太郎③へ



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~ Comment ~

No title 

マーガレットさんとロジャーさんのやり取りが楽しすぎます(^^)

月さんの文章の書き方がまた笑いを誘うというか。「いない、いない、婆」が個人的にツボにはまって、思わず吹き出してしまいました。

また読みに来ますね。月さんの小説、いつも楽しみにしてます(^^)

No title 

夏美さん、いつもありがとう^^
わたし小説書くの向いてないかも(つд・)
意味もなく場面が浮かんで、ダラダラと書いてしまいます><
わたしも夏美さんの小説好きですよ^^
また続き読ませてくださいね^^

No title 

今回の話も十分面白いですが、ロジャーさんとマーガレットさんの夫婦になるまでのストーリーも見てみたい気がしました(笑

エリート同士精鋭の軍人ならではの物語を勝手に想像してしまいました。

No title 

sammoさん。
二人の文字通り燃えるような恋愛。
きっと周りも違う意味で燃えてしまいそうです(゜▽゜;)
そして周りが被害をこうむるのを恐れて、
二人を結婚させて、あそこの家に隔離したりして(゜▽゜;)

次回は、桃太郎青春編です><

No title 

①&②を一気に読みました。
ええと、「監修:彼」ということですが、ミリタリーマニアでいらっしゃる?(゚ー゚  )
所々の細かい説明がむしろ面白い! 読んでいて楽しいです。
戦闘シーンに熱意がこもってて、二人のやり取りが目に浮かぶよう。
それにしても桃太郎は大物になりそうです。
続きを楽しみにしています(^ー^)ノ

No title 

マニアなのかしら?(゜▽゜;)
やたら詳しいことはたしかですけど。
彼と一緒にサバイバルゲームにも一緒に参加してるんですよ^^
彼はアブナイ人じゃないですよ^^;
続きはすぐに上がりそうです^^
また遊びに来てくださいね^^

PS.BLOGのIDとパスワード忘れると困るので、彼にも管理してもらいました^^;v

お邪魔します! 

夫婦喧嘩凄いですね…ッ!
もう一般人は絶対に踏み込めない領域っていいますか、
仲裁にでも入ろうものなら、即死クラスですよね!?

お爺さんも散々やっておきながら、
お婆さんの涙に弱いだなんて、そのギャップに萌えてる私がいます…!
それを逆手に取った上で悪魔以上の悪さを仕出かすお婆さん…
心理戦のプロというかもうなんというか……本当に最強ですね!!

今後桃太郎がどのように成長していくのか、
楽しみに見させていただきますーっ!

NoTitle 

筱さん、コメありがとうございます^^

はい、あそこの夫婦喧嘩は、喧嘩の域を超越しまくりです(゜▽゜;)
一般人どころか、軍関係者もさじを投げています^^;
というか、戦闘機さえも撃墜されかかるという(゜▽゜;)

ロジャーさん、ああいう態度でもマーガレットさんへの愛は本物です^^
そしてそれを逆手に、マーガレットさんが反撃します^^
惚れた弱みというやつです^^

いつもありがとうございます^^

NoTitle 

 それにしても、ロジャーさんとマーガレットさんのような御老人が増えれば、一気に老人福祉問題は解決でしょうに。
 しかしnその前に国の国の土台が崩れるかもですが^^;
でも、こういう老人になりたいものです?

NoTitle 

ロジャーさんたちなら医療費かからないし、100歳まで働けそうですね(゜▽゜;)
国の土台というか、、日本が焦土と化しそうです(´_ゝ`)
こんな元気な老人って、見ていたらこっちも元気になれそうですね^^
将来を悲嘆するばかりじゃなくて、若いもんには負けん!!という気迫は持ちたいですね^^
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