小説の方がまだ書き終わらないので、穴埋め的な日記を(つд・)
今日、天気もいいのでバイクを洗っていると、見慣れない車が家の前で止まった。
逆光でよく見えなかったけど、家族連れのようだった。
そのまま太陽を背に近付いてくる。
太陽を背に?
きっとプロに違いない。
などと、現代版桃太郎に汚染された脳が告げる。
そんなこんなで、目の前まで来た女らしき影が声をかけてくる。
「姉貴、久しぶり。ていうか、まだ
”バイクなんか”乗ってるのね」
ブチッ。
声の主、妹の舞衣(まい)の一言に少しキレてみる。
「悪かったわね、まだ乗ってて」
と、わたしは妹をシカトしてバイクの洗車に戻る。
「で、いきなり来て、どうしたのよ?」
問うわたしに、妹が不機嫌そうに答える。
「かわいい妹が訪ねてきてあげたのに、なによその言い草は。だいたい姉貴が、実家から2時間かからないなんて言うから来たけど、4時間かかったわよ」
「かわいいかどうかは別として、ここまで2時間かからないわよ?一体、どんな走り方したのよ」
「いや、それはこっちのセリフだから」
などと、細かいことを気にする妹。
いちおう読んでいる方に言っておくと、わたしたち姉妹は仲は悪くない。
こんな言葉のやり取りをしてはいるが、実は仲が良い。
そして、それまでわたしたちの様子を見ていた男が、控えめに声をかけてくる。
「夢衣さん、こんにちは。いきなりお邪魔しちゃってすみません」
この気の弱そうな男は、妹のダンナさんで、高志さんという。
「あ、そんなことないですよ。今、バイク洗っちゃうので待ってて下さいね」
と答えるわたしに、妹が怒ったような口調で口を開く。
「あのね、私たちははるばる4時間もかけてやって来たのに、バイク洗う方が大事なわけ?」
「大事よ。せっかく洗ったのに、このまま炎天下に置いておいたら、水垢になっちゃうじゃない。適当に入って、冷蔵庫の中の飲んでていいわよ」
とわたしが告げると、今まで高志さんの陰に隠れていた、小さな影が2つやって来た。
「仮面ライダーのおばちゃんだぁ!!」
とはしゃぐのは、妹の上の娘、6歳の魅紅(みく)ちゃんである。
この魅紅ちゃん、わたしが実家にバイクで訪れて依頼、仮面ライダーのおばちゃんと呼んでくる。
何が悲しゅうて、20代前半でおばちゃんと言われなければならないのか。
まあ、妹よりは年上ではあるが。
そして魅紅ちゃんの後ろに隠れている小さな女の子は、魅蘭(みらん)ちゃん4歳である。
魅蘭ちゃんは、わたしが書いた小説『悲恋華草』の主人公、流・魅蘭の名前の元になっている。
わたしは魅紅ちゃんを抱き上げると、
「またバイク乗せてあげるね」
と言ったとたんに、魅紅ちゃんはにぃぱぁっと笑う。
「ちょっと、私の娘に変なこと教えないでよね」
妹が何か言っているが、無視である。
それから30分ほどあと、バイクの水をふき取り終わり部屋に戻ってみると、妹夫婦はソファにすわり、ちび助たちがわたしのバトルスーツで遊んでいた。
「変身!!」
と言いながら、GIBSONのヘルメットをかぶる魅紅ちゃん。
そのままフラフラよたよたと歩き出す。
大人用のバトルスーツのジャケットは床まで届き、ズボンは膝のところまでしか届かず、裾を引きずっている。
殿中でござる!!のような光景に、わたしは思わず微笑む。
なんかかわいい。
わたしはラズベリータルトとブルーマウンテンをテーブルに置くと、姪っ子たちにオレンジジュースを出してやる。
「それで急にどうしたの?」
わたしがタルトをつつきながら聞くと、妹がコーヒーを飲む手を止める。
「姉貴さあ、家に戻る気ない?」
妹の一言に、わたしは目を丸くする。
「あんたたち家を出るの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさあ。父さん最近、元気ないんだ」
と、少し顔を落とす舞衣。
たしかに母が亡くなってから、父の気落ちっぷりは傍から見ていてもすごい。
一緒に同居していればなおさらだろう。
「う~ん、彼に相談しないとだけど、そんなにひどいの?」
「いや、そんなでもないんだけどさ。父さん、姉貴のことすごい心配してるよ」
「そうなんだ。じゃあ、ちょくちょく帰るわよ。2時間くらいだし」
「いや、だから4時間かかるんだって」
「なんでよお?普通に走ってたらかからないでしょ」
「何キロ出してんのよ!!」
「メーターなんか見てるわけないじゃない」
「見なさいよ!!」
と、ふたりで大笑い。
ひとり蚊帳の外の高志さん。
この人はかなり大人しい。
そんなこんなでとりとめのない話をしていると、いつしか時計の針が2時を指していた。
「あぁ、もうこんな時間。姉貴、私たち帰るわ」
「だってまだ早いじゃない」
と引き止めるわたしに、
「だから、車だと4時間かかるのよ。もうこんな遠くに来るのはこりごりだから、今度は姉貴が彼連れて帰ってきなさいよ」
子供たちに帰るからと用意させると、とたんに魅紅ちゃんがぐずりだす。
「ばいくぅ、ばいくぅ」
とじたばたする。
「バイクで魅紅ちゃん送っていく?」
「いややめて!!娘殺す気?」
「じゃあ、とりあえずその辺走ってくるわ」
と、バトルスーツに袖を通し、ヘルメットをかぶる。
「魅紅ちゃんおいで」
魅紅ちゃんをシートの前に乗せて、抱きかかえるようにハンドルを握る。
キュッキュッ、ブウォンッ、フォンフォゥン!! セルが回りエンジンに火が入る。
魅紅ちゃんがはしゃぐのを、押さえるように身を伏せて走り出す。
もちろん、そんなにスピードは出さない。
20km/hかそこらのスローペースで家の周りを3週する。
そういえばと、思い出す。
この魅紅ちゃんと、お留守番をしている魅蘭ちゃん。
実は、わたしの彼が名付け親なのである。
魅紅と魅蘭。
言葉だけ見ればかわいいのだが、実は秘密がある。
魅紅ちゃんの名前の由来は、ロシアのミコヤン・グレコヴィッチから取ったものなのだ。
一見するとロシアの芸能人?と思うかもしれないが、そう、ロシアの戦闘機、ミグから取ったものなのだ。
初めて聞いたときにわたしは妹夫婦が反対すると言ったのだが、『かわいいじゃん』の一言で決定してしまった。
いいのかそんなので。
そして魅蘭ちゃんにいたっては、そのまんまフランスの対戦車ミサイルのミランから取っている。
こ、こんなところに、ロジャーさんとマーガレットさんが……。
まあ、名づけたのは彼だけど。
そして家の前へと戻ると、すでに3人は車に乗っていた。
魅紅ちゃんにバイバイを言って、車に乗せると、また4時間のドライブが始まろうとしていた。
人の少なくなった家が、なんだか静かで淋しい。
わたしも子供が欲しくなった。
だけど、彼に名前を決めさせるのはやめようと誓う。
わたしがかわいい名前を付けるのだ。
きっとバイクの名前から取って。
No title
月さんのお子さんがどんな名前になるのか、楽しみです^^